投稿

11月, 2009の投稿を表示しています
3 高齢者の雇用が現在の国民的な課題であるとしたら、どのような問題や個々の課題がでてくるだろうか。  とりあえず現在の企業が抱えているきわめて今日的な難題である、『金融危機」による雇用調整の問題は置いておこう。問題をより純粋な形で見るために必要な措置である。この問題を入れると、見えてくるものもはっきりしなくなる恐れがあるからである。もちろん無視はできないので後から論議の対象になろう。  そこで問題を考えるための基本前提から確認しよう。  (1)高齢者が必要としているのは単なる時間つぶしの、暇つぶしのアルバイトではなく、制度的に保障された雇用であり、60歳までの正規常用雇用と同じではなくとも、一定の技能に対する一定の評価を踏まえた報酬である。とはいっても雇用形態は現実的にはパートタイムに近いものしか望み得ないであろう。  (2)企業はメンバーシップ契約を基本とする従来の日本型雇用をとるかぎり、ある職務にたいする社会的に正当な報酬を非正規雇用に支払おうとはしない。せいぜい需給関係によっていくらかのプラスのついた時間給しかださないであろう。  (3)行政は高齢者雇用に対しては現在ほとんど無策である。ハローワークによる仕事の斡旋は若年や中年までのそれであってもうまくいっていない。いわんや高齢者の雇用に対応できているはずはない。各自治体のシルバー人材センターは高齢者の雇用に対応するものではあるが、行われているのは草刈や庭掃除などの比較的雑用労働に近い仕事の斡旋であり、センターに集まる多様な人材の要求を満たすものとは程遠い。それでも地元の企業と仕事を求めて競合する側面も見られる。当然センターがより高度の斡旋機能を果たすようになれば、大きな問題となる。  こうした現実に立って課題を整理していかなくてはならない。
2  高齢者の生活の基本的な保障は、年金などの社会保障制度によるものである。これを家族愛だの道徳だの、という制度的な枠組みとは別の人間の心情レベルに依存させようという方向が日本では一貫して見られた。しかし親の面倒をみたいという子の心情はもちろん肯定的に評価できるとしても、そうした心情を当てにしないところで、制度は権利を保障するものとして存在していなくてはならない。  しかしその上で課題がある。それは高齢者が自活するという目標に必要なものの中身である。第一に生活保障、第二に仕事の可能性であろう。後者は本人が望めば自分にあった仕事を少しでもやれる範囲でやる、という仕組みの実現となる。これが実現できれば、年々負担が重くなる年金制度をいくらかでも救うことができるはずである。  しかし日本の現実はいづれもひどいものである。年金による生活保障はきわめて不十分であって年金だけで生活できる人は少ない。特に夫婦でなく単身者はきついのが現状だ。そうなると少しでも働いて生活の足しにしようということになるが、今の日本ではなかなかそうはいかないのである。年齢による雇用制限が一般的であって、よほど特殊な技能職でないかぎり、満足の行くような仕事にはありつけない。60歳まではある程度の企業で管理職をやっていたという人が退職後に就ける仕事は自給700円の工場のパートしかない、というのはかなり一般的にいえることである。これでは高齢者の自立は困難になる。現代、高齢者の自立不可能性が大きな問題として厳しく取り上げられないのは、今までのところ、子供などの家族との共同生活があるからなんとかなっているだけである。年金水準が次第に下がる、家族がさらに小さいものになる、子供が未婚のまま老齢を迎えるなどに事態が進行していけば、この問題は巨大なものとして前面に出ることになろう。  もちろん年金保障の充実はまず実現すべきことである。そのための負担は国民全体が税で分かつという体制が意識の上でも作られねばならない。自活できない人間がいて何の権利、自由な発言が存在するというのか。年金財政の厳しさが増している現代では年金を抑える方向ばかりが論議されがちであるが、あいかわらず正論を主張すべきである。国民レベルでの合意はまだ図られていない。麻生政権はいつの間にか「中福祉中負担」国家が国民的合意の方向であるかのような発言を
1、 オランダの雇用はきわめて平等主義的(同一時間賃金同一)であるが、これはオランダにおける女性の職場進出が極めて低調であったことに対する対応であり、また日本と違って雇用者が労働時間を減らそうという志向が強いという事情もあって、男女平等、きわめて水平的なワークシェアリングが可能となっている。日本では91年ごろ年間労働時間2100時間超から昨年には1800時間になってきていて、これをさらに減らそうという動機はあまり有効に働かない。また女性はすでにパートなどで一定の社会進出をしている。(大久保幸夫 「日本の雇用」講談社新書参考)   ワッセナー合意: 80年代、12%を超える失業率に悩むオランダで短時間労働の創出に成功。労働側は賃金抑制に同意、企業は時短と雇用維持(その後、短い労働でも時間に比例した社会保障的給付の実現につながった)の同意、政府は減税同意によって可能となる。          

はじめに

 いよいよ始めるか。まずは現実的な手がかりから取り組むことになる。決して本のなかの理論的な組み立てに終わってはならない。  しかしそのためにはかなり不慣れな作業を要求されるであろう。さてどこから動き出すべきか。      11月2日